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牧師・漫画家・ミュージシャンの松本太郎のブログ


by qpqp1999

キリスト教においては自殺は罪ではない2

10月16日のつづきを書きます
驚くべきことに
自殺が罪と神学的に定められたのは
4世紀になってからのことで
それまでは自殺に関して、それが罪であるとかないとかは
議論された歴史的な痕跡がないのです。
西暦415年にアウグスティヌスという人によってそれは示されました。
アウグスティヌスという人は
古代キリスト教世界において
最大の影響力をもつ理論家。
カトリック教会・聖公会・ルーテル教会・
正教会・非カルケドン派で聖人とされている神学者です。
この人が書いた「神の国」の1巻20章で
キリスト教の十戒の
6戒(カトリック・ルター派では5戒)をもちだして
自殺を罪と定めています。
「人は自分自身を殺してはならないと理解するべきである
なぜなら十戒における「殺してはならない」には
何等の保留条件もなく」「人に都合良い例外はないからである」
と書いています。
実のところ
この神学が現代のキリスト教においても
圧倒的な支持を得ており
その神学的根拠
ともすれば
信仰的根拠にすらなっているのです。
ところがこう書いた直後に
この議論は破綻してしまいます
というのは、聖書に根拠を厳密においていくと
聖書の申命記には
聖戦に関する記述があって
敵国の民を完全抹殺せよというような
神からの命令が書かれててることに触れるからです。
そこでアウグスティヌスは議論を曲げて
「神の権威によって作られた例外が存在する」
と書いているのです。
なるほど聖書には自殺を肯定的に書いている個所が存在し
自殺を否定的に書いている個所が存在しないのです。
肯定的に書いている個所の代表的なものは
「サムソン」関する記述です。
サムソンは士師記に描かれるイスラエルの英雄でしたが
敵国ペリシテに捕らわれの身となり
両眼をえぐり取られます。
ペリシテの見世物に引き出されたサムソンは
ペリシテの神殿に引き出されますが
そこで、神殿の柱を折って神殿もろともペリシテの人々を
殺害した上、自決しました。
アウグスティヌスを悩ませた聖書個所の代表がここです。
そこでアウグスティヌスはかなり苦し紛れに
「彼を通じて奇跡を引き起こした聖霊が
このようにすることを秘密裏に諭したから」
と言い逃れしてしまっているのです。
こんな事言い出したら
宇宙戦艦ヤマトの波動砲みたいに
何にでも通用しちゃう議論になってしまいます。
またアウグスティヌスは
レイプされて自決しキリスト教徒の女性
ルクレティアについても触れて
悩んでいます
というのも
キリスト教の圧倒的多数派の
カトリック教会の聖人の中には
このようにレイプされて自殺した女性が
多数存在しているからです。
このような形でアウグスティヌスの自殺に対する罪という概念は
完全に破綻してしまっているのです。
それは現代キリスト教社会にも通用する問題です。
そういうわけで多くのキリスト者が肯定している
アウグスティヌスの自殺は罪とさだめられるということは
無理があることになってしまうのです。
とは、いえ
私はこのアウグスティヌスという人が好きです
彼は元々
反キリスト教の立場をとっていました。
彼はマニ教というちょっとかわった宗教の信徒でした
また
哲学にも非常に熱心に勉強していた人でした
そんな彼から見るとキリスト教は
当時、強力な勢力になりつつありましたから
好きになれなかったのは
実は私も共感するものです
私も性同一性障碍の関係で
キリスト教社会はもちろんのこと
日本の社会からマイノリティーになっている者です。
そんな私からみると
キリスト教なんてと思ったりしてもしまうものです。
ところが
アンブロシウスというキリスト教司祭の
説教に
アウグスティヌスはイかされてしまったのでした。
だから
キリスト教の説教って
とても大事なんですね。
それを聴いている人を主の福音のうちに導くという
ものすごい役割を与えられているわけですから
その意味でアンブロシウスという人はすごいキリスト者でした
学問的にも宗教的にも完結していたはずの
アウグスティヌスをその説教で虜にしてしまったのですから。
387年のイースター復活祭にアウグスティヌスはアンブロシウスから
洗礼を受けてキリスト者となったのでした。
このように
アウグスティヌスの論を継承して
自殺を罪と定めることに関しては
アウグスティヌス自身の著述で破綻していることを
簡単にまとめてみました。本当は
この問題については
論文や本が一冊書けるくらいのものなのですが
ものがブログですので
できるだけわかりやすく書いてみました。
次のテーマは
よく保守的福音派のキリスト者がよく言う
自殺は
自分以外の全ての人を殺す行為だ
ということに関して書きたいと思います。
by qpqp1999 | 2011-10-26 20:05 | キリスト教